Cristallina Architecte | クリスタリーナアーキテクツ

Architecture with European inspiration & Japanese sensibility

- Design Journal

軽井沢のレーモンドとヴォーリズ

13/07/2016

ここの所、だいぶ蒸し暑くなってきましたね。 時々、リフレッシュに、日帰りか一泊そこらで東京からあまり遠くなくて自然に囲まれた所に風景や建物を見に行きます。
先日、軽井沢に散策に行ったついでにタリアセンを初めて訪れました。
Taliesinと聞いてまず思い浮かぶのはF.L.ライトが弟子達と共同生活をしながら建築設計の実践と教育を行った、広大な荒野に建てられた有機的なデザインの建築群です。 何か関連があるのかと思っていましたが、行ってみるとライトとは特に関係ないのか、名前の由来の説明は見当たりませんでした。
そこに移築されたW.M.ヴォーリズとA.レーモンドの設計した建物を訪れました。
taliesin karuizawa
写真上段がヴォーリズ設計の旧朝吹山荘、下段がレーモンドの夏の家です。
離れてはいますが丁度湖岸の向かい合った辺りに移築されています。
両方共、偶然か、外観は弁柄系の色でペイントされ興味深く思いました。
ヴォーリズ(1980-1964)もレーモンド(1888-1976)もほぼ同時代を生きた建築家と言えますが、人生、作風、共にかなり好対照だったと言えるでしょう。
ヴォーリズの山荘はどこか和の建築の数寄の心にも通じるような、arts and crafts 的な洋館と言う印象を受けました。
ノルウェーやスェーデンの北欧の伝統的な民家を彷彿する外観でもありました。
外壁部と欄干の木材は木の持つ自然なでこぼこ感を巧みに使い、野趣、風流な味わいがあります。
内部は内部で手作りの味が豊かで、とても上質な造りになっていました。
館内は飴色の艶のあるダークブラウンの木材で統一されていて、やや薄暗がりを感じるトーンで雰囲気があり、南北の窓から明るい光が沢山入って、バランスがとれています。
奥の大きくて立派な石の暖炉で薪がパチパチ燃え、長いテーブルにゲスト達が一同に座り、外の雪景色でも眺めながら暖かい室内で、おしゃべりを楽しみ、食事をしている光景が目に浮かんできます。
湖畔を一周して、今度はレーモンドの夏のアトリエに向いました。
建物を前にして、何とも言えない、懐かしさを感じました。
ヴォーリズには間接的な和の気配があるとすると、レーモンドには直に和が融合されている感がありました。
自然の水平線に対し、垂直ラインより平行または緩斜ラインが主となる造形です。
シンメトリーでなく、雁行し、角は壁体でなく、透明感があります。
そして、中央に気持ちのよい縁側空間が開けています。
一方、深い庇屋根を被っていない点では、北欧のアルヴァー・アールト的な形を彷彿するものがありました。
レーモンドがこのアトリエを手作りしながら、実験的にいろいろな要素を試みたのではないかと思いました。 そうしたものがこのミクロコスモスに凝縮されているようでした。
建物の中に入ると、更にまた、すっかり自分の記憶の片隅に追いやられ、埃をかぶって眠っていたものが呼び覚まされたような感覚を受けました。「あれ、何だったっけなぁ? あっ!そうだ!」と思いながら、目の前にあの懐かしいコルビュのスロープ空間の木造ミニバージョンが展開しているのに気が付きました。 前調べをまるっきりせず、ついでで訪れたのでなおさらです。
私は建築教育を日本で受けず直接フランスで受けたので、日本の建築学部の一、二年生がまず見に行く建築物は何か存じないのですが、フランスの建築学部ですと、差し当たって最初に見に行くうちの1つはル・コルビュジエの建築物です。
一、二年の時はコルビュの図面集が常に机上に出たり入ったりし、基本中の基本でした。
話はちょっと飛躍しますが、かつて、西洋絵画において、印象派の画家達が浮世絵に感化され、近代の平面的な絵画表現へと移って行ったように、ル・コルビュジエやライト、そしてミースの作品を見ていると、西洋の建築もどこか和の建築空間にヒントを得て、モダニズムへと移行して行ったのかもしれない、と時々思うことがあります。
そんな、こんな、をぼんやり考えながらレーモンドの夏の家を後にしました。
ちょっと残念に思ったのは、レーモンドの建物の中は何の脈絡もないミスマッチなペイネ美術館になっていたことでした。 展示の仕方も、レーモンドの空間とペイネの絵をお互いに打ち消し合うようなディスプレイになっていました。(正直な感想なのでお許しください。)
ペイネはペイネにマッチするデザインの建物に展示した方がよさそうですね。
美しい花でも見てリフレッシュしようと、軽井沢にあるバラ庭園をいくつか見に行ったのですが、タリアセンに寄って、思いがけない発見をした一日でした。

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